Maker Faire Tokyo 2024にRGB LEDで自作するフルカラーイメージセンサを出展しました.Young Maker Challenge最優秀賞もいただけたので,自分なりのMakerイベントのポイントを紹介します.
Maker Faire での展示
このブログでは,作品そのものではなくそれをどのように展示し,作品の魅力をどう伝えたかについて書いていきます.
作品についての詳細は別のブログで紹介しています.
展示物
レイアウト
今回の展示はこの枠内に収まる3点だけで最低限成立します.
- LEDを使ったイメージセンサを搭載したカメラ
- 被写体のiPad
- カメラの制御用のノートパソコン
しかしこれだけではお客さんが作品の面白さを理解するのは難しいです.作品そのものをパッと見て明らかにインパクトがあり面白いものなら良いですが,この作品では説明が無ければなんのことか分かりません.
積極的に質問をしてくれるお客さんや,込み入った作品を見て興味を持ってくれるお客さんもいますが,より多くの人に作品の面白さを伝えられないのはもったいないです.
そのため作品そのものだけでなく説明することを考えて展示物を揃え,1800×600mmの机にどのように配置するかのレイアウトも準備しました.
メインの展示物を真ん中にしたうえで,左側には運営から配布されるB5サイズの出展者紹介や概要・原理を簡単に説明するポスターを配置,右側には詳細な原理説明や試作回路を配置しました.
このように,お客さんの見る順番に合わせて動線も意識してレイアウトしています.
事前にレイアウトの確認も行いました.
展示物
デモ機
デモ機には「さわらないでね」の注意書きを貼り付けています.
MFT運営から素材をダウンロードできます.
ポスター
ラクスルでA2サイズのポスターを用意しました.ポスターはMakerブースではほぼ必須だと思います.ポスターには2つの役割があると思います.
- お客さんにどんなブースなのか興味をを持ってもらい立ち止まってもらうこと
- 作品について説明するときに見せる資料として使うこと
特に作品を見てどのようなものか分からない場合には,このようなポスターの効果は大きいです.
ポスタースタンドはこれです.クリップでポスター上部が見えなくならないように,養生テープで挟む部分を作っています.またポスターが丸まらないように裏に割り箸を貼って真っ直ぐにしています.
基板
イメージセンサのデモを行うために本体はカメラの中に組み込むので,デモ機とは別に展示用のイメージセンサを別で用意しています.
また,手に取れる実機があるとお客さんとコミュニケーションも取りやすくなります.
ダイオードの実物
これはスペースが余って適当に用意したものですが,発光素子のダイオードと受光素子のダイオードを導電性スポンジにさして並べています.
このような展示は博物館に行くと参考になります.
動作原理の詳細な解説
ポスターだけでは技術系の細かい話ができないので(しない方が良いので),動作原理の詳細は別の資料を用意しています.さらに,簡単な基板を用意してUSBオシロスコープ(Analog Discovery 3)でその動作波形を見せています.LEDに手をかざすことで,光量が計測できることを体験できるようにしました.
また,白い机にただ白い紙を置くだけだと目立たないので,A4の黒の厚紙のうえにB5の紙を貼ってコントラストを出したり,タイトル部分を立体的にして目立たせたりしています.また,マスキングテープも黒色のものを使っています.(この厚紙とマスキングテープはデモ機の筐体にも使っています)
基板はこのようなもので,シルクに回路図を書いて分かりやすくしました.
テキトーなジャンパー線で接続するとごちゃごちゃして不必要に目立ってしまうので,協和ハーモネットのスリムロボットケーブルで専用のハーネスを作っています.
実際の試作回路
きれいに整えた展示用の回路だけでなく,雑に作った実際の試作回路も用意しました.Maker Faireでは製作の過程も展示すると良いと思います.
Maker Faire特有の話
出展者名
かなりどうでもいいですが,MFTのホームページから「出展者紹介」に飛ぶとデフォルトのカテゴリーがエレクトロニクスになっています.さらに 数字・記号 > アルファベット > 日本語 の順でソートされており,カテゴリーがエレクトロニクスで数字・記号始まりの出展者名にすると,上位に表示されて目立ちやすくなります.(今回はたまたま)
プレゼン
Maker Faireではそれぞれブースに来たお客さんと話すだけでなく,希望すればステージでのプレゼンも可能です.このようなスライドを作っておくとブースの話す内容も整理できるのでおすすめです.
https://makezine.jp/event/mft2024/program/#stage_day2
ステージでのプレゼンテーションで使用したスライドはこちらです.
懇親会
1日目のあと,出展者向けの懇親会があります.
小さな作品なら持ち込んでも良いですが,ブースからは離れるので名刺に展示物の写真をのせておくと便利です.これもラクスルで用意しました.
Young Maker Challenge
Young Maker Challengeは出展者のうち学生を対象としたコンテストです.各ブースを回っている審査員の方に作品の説明を行います.表彰式はMaker Faireの最後にありました.
Maker Faireというイベントの特性上,作品そのものの優劣はそもそも判断できません.そのため,それぞれ作品の魅力をどれだけ上手く伝えられるかが重要になります.2024年のYoung Maker Challengeの様子はアップロードされていませんが,2023年の様子はこちらです.賞を狙う場合は審査員の方のコメントを参考にすると良いと思います.「この作品はどこにおもしろポイントがあるのか,その分野に明るくない人にも分かりやすく,熱量を持って伝えられるか」というようなことをおっしゃっています.
話し方
話し方は3つ意識しました.
- ブースの前に立ってお客さんに積極的に声をかけること
- 作品のどこが面白いのか,明確にポイントを絞って話すこと
- お客さんの雰囲気やリアクションを見て,話す内容を変えること
まず,ブースの前に立ってお客さんを捕まえることです.展示ブースの内側に立って説明している人も多いですが,机の外に出るとお客さんに声をかけやすくなります.
客引きぐらいのノリで声をかけて,「こんにちは~,LEDって―」というふうに強引に話しかけることが多いです.
いきなり「LEDの光電効果を使ってCMOSイメージセンサを作って,RGB LEDの特性の違いを使ってフルカラー撮影ができるようにしました.微小電流を測定するために~」と話したところで何のことか分からないし,何がすごいのか面白いのか伝わりません.
技術屋的には,CMOSイメージセンサの回路を普通の基板に実装したこと,行選択回路にインバータを使った話など,小難しい話をしたいのですが,まずはお客さんが知っている範囲の話から入ると良いです.
この作品ではLEDは電気を流すと光るアレだということ,カメラが光を受けて写真を撮るものだということから話を始めています.具体的には,「LEDは電気を流すと光る部品なんですが,それを逆にして,実は光を受けるセンサーとして使うことができます.この性質を使ってカメラのセンサーにしたのがこの作品で~」というように話しました.
作品のポイントとしては以下のものを考えており,これをお客さんの反応や事前知識に合わせて話しています.他にもありますが,単に技術的な仕様を話すという目的ではなく,「こうなっていて,だから面白いでしょ」というテンションで話せるネタにしています.
- LEDって光る部品だけど,逆に使ってカメラのセンサにできるんだぜ
- RGBで光る色が違うと反応する光も違うからフルカラー撮影できるんだぜ
- この基板ぜんぶ手作業で部品つけたんだぜ
- 実際のCMOSイメージセンサと同じ回路で微小な電流測定してんだぜ
- インバータをトリッキーな使い方して行選択回路にしたんだぜ
Maker Faireは客層が広く,お客さんの雰囲気や質問内容に合わせて話す内容を変えると良いです.ただふらっと遊びに来た人もいれば,電子工作が好きな人,イメージセンサ・カメラ本業の人など,様々な人が来るのでそれぞれの人に面白いと思ってもらえるような話をするよう心がけています.
ただしこのように積極的に声をかけたり話す内容をよく考えたりするのはかなり大変で,絶対に複数人でブースを回したほうがいいです.今回は大学の後輩に手伝ってもらいました.動作原理を解説する基板も彼の設計です.
まとめ
作ったものをとりあえず展示して興味を持ってもらった人と喋るだけでも楽しいし,そのようなブースもあっていいと思います.
労力はかかりますが,せっかくなら多くの人に作品の面白さを伝えたいという場合にはこのブログの内容を参考にしてみてください.